east right2


「早いな…」
 デュークオルグは呟いた。
 指定した夕刻には2時間程早い。
「…なるほど。一人で来たか」
 しかし、一人の男の姿を確認すると、彼は微笑した。
 傍らに眠る男を担ぎ上げ、彼はその男のところへと向かった。



「レッドがいないわ!」
 朝。
 走を起こしに行ったホワイトは、皆の前でそう言った。
「なんだって?!」
「どういうことだ…!」
 ブルーとブラックが驚愕する。
 しかし、俺は驚かない。
 知っている。
 走は、狼鬼にさらわれた。



 朝起きると、俺の部屋の床には一枚の紙切れが、無造作に置いてあった。
 そこには、古風な字でこう書かれていた。
『ガオレッドはあずかる。テトムを渡す気があるのなら、夕刻6時に例の笹林に来い』
 …と。



 どうして、この手紙が俺の元へ送られたのか、その理由はわからない。
 だが、俺は、そのことを皆に話すつもりは無かった。
 テトムは絶対に渡さない。
 しかし、この話をテトムが聞けば、当然の様に己の身を狼鬼に明渡してしまうだろう。
 だから、このことは秘密にしておく。
「あぁ、レッドなら街だ。夕方には帰るって言ってたぞ」
 俺は、嘘をついた。
「えぇっ?!レッドが?」
「なんだよ、単独行動は禁止じゃなかったのか?」
 ホワイトとブルーが騒ぐ。
「事情がある…とか言っていた。なにか深刻そうな顔でな」
 これは、俺が必死に考えた嘘。
「なにか…あったの?」
 ホワイトの表情が重くなる。
 俺は、極力涼しい顔を作った。
「さぁな。プライベートな事情なんだろ。まぁ、あいつも大人だし、今日くらいは多めにみてやろうと思ってな」
「だから、止めなかったのか」
 ブラックが呟く。
「あぁ」
 頷いて、俺は本に目を落とした。
 納得したような皆の様子に、静かに胸を撫で下ろしながら。



 今日の買出し当番が、俺だったのは幸運だった。
 これで、自然にガオズロックを出られる。
 腕時計は、午後4時を示している。
 俺は、まっすぐ笹林へ向かった。



「よく来たなガオイエロー。どうやら、テトムを渡す気は無いようだな」
「ったりめーだ!レッドを返しやがれっ!」
「取引…という言葉を知らないのか。テトムが無いなら、ガオレッドは返せん」
「るせーっ!レッドは無事なんだろーなっ?!」
「…見たいか」
 微かに笑った狼鬼。
 それに警戒しながらも、俺は肯定を返す。
 そして、狼鬼は俺の前に、信じられないものを見せつけた。
 木陰から引きずりだされたもの、それは…
「走っっ!!」
 それは…力なく項垂れた、霰もない姿の…俺の恋人だった。



 あまりの衝撃に、俺は声を失う。
 走の服はずたずたに切り裂かれて、服というより布切れになっていた。
 そして、走の脚には…
 見るのも辛い、血の跡。
「が…く……?」
 走は狼鬼に支えられ、やっと立っているような状態。
 しかし、ほんの少し顔をあげ、俺の名を呼んだ。
 その表情は、放心の様に似ていた。
「ほう…。まだ話せたか」
 狼鬼は、おもしろそうに呟いた後、剣を走に一閃させた。
「うああっ!!」
 走の腕に、血の筋が浮かびあがる。
 叫び声に、やっと俺に正気が戻った。
「走っ!…くそっ、狼鬼っ!」
「ふ…まぁいい。俺の望みの一つは、達成されたのだからな」
「なにっ?!」
 すると、狼鬼は走を突き放した。
 声も無く、倒れる走。
 しかしまだ狼鬼の傍らにあるため、駆け寄ることができない。
「こいつは返そう。貴様の志に免じてな」
 それだけ言うと、狼鬼は笹林の奥へ消えていった。



「走っ…!」
 俺は走を抱き起こした。
 冷たい身体に、驚愕する。
「…が…く……」
 虚ろな目で、それでも俺を確認しようとする走。
「走…」
 なんと言えばわからず、ただ走を…抱きしめる。
 走はそれに安堵したのか、静かに瞳を閉じた。



 走に俺のジャケットを羽織らせ、街に出た。
 夕暮れの街の、変な視線を浴びながら、俺は適当なホテルに入った。
 こんな姿の走を、ガオズロックへ連れて帰るわけには…いかなかった。
 とりあえず、シャワールームへ。
 走を洗うために。
「おい、走…大丈夫か……?」
 決して大丈夫なわけはないが、そう尋ねた。
 他に、言葉を知らない。
「うん…ありがと……」
 なんとか意識も回復してきたようで、走は答えた。
 力なく笑う様子が、痛々しい。
 たまらなくなって、俺は再び走を抱いた。
「岳…?」
「守って…やれなかった」
 こいつだけは、たとえ地球がオルグに支配されても、走だけは守ってやる…そう決意していたのに。
「ちがう…岳…、助けてくれたよ…?」
 細い声は、優しく俺に降りかかる。
 いったい、どんな拷問をうけたというのか…
 抱きしめた走の身体には、血がこびり付いていた。
 幾つかの傷。いずれも浅いものだった。命に別状はなさそうだったが、
 気絶するくらいの、痛みがあったに違いない。
「あ…岳、あの…シャワー使いたいんだけど…」
 言われて、俺は走から離れた。



「ありがと。服、買ってきてくれたんだね」
「あぁ、着れるか?サイズがわからなかったから、とりあえずフリーサイズ買ってきたんだが」
「着れたよ。ありがとう」
 シャワールームから出てきた走は、いつもの走の様だった。
 走が体を洗っている間に、俺は近くの店で服を買ってきた。走はそれを着ていて、すっかり戻った様に見えた。
 血の跡も匂いも消えていた。
「よし、帰るか。あんまり遅いと皆に怪しまれる」
「えっ…皆には、言ってないの?」
「あぁ」
「…そう。良かった」
 走は、俺に寄りかかる様に抱きついた。
 ふわりと香る、石鹸の香り。
 暖かくなった身体に、俺は安堵した。
「ごめん…岳、なにからなにまで」
「謝んなきゃいけねーのは俺だ。走を、こんな目に…」
「大丈夫。俺もう、大丈夫だから。岳は悪くないよ」
「すまない…」



 そして、俺たちは並んで、ガオズロックへ帰った。



                               おわり







  BACK  Top だああぁぁぁぁーっ!!
狼鬼さま、性格違うし…。
一応これは、黄赤前提の狼赤ですので、2の方はヤバくも甘くもない黄赤となっております。
「ヤバいの読みたいだけなのよっ!」…というお姉さま方には、2は不要ですね♪
 
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