堕ちていく…1


昼間。
おれはアニマニウムに来た。
こう、何か目的があって来たわけじゃない。
ただなんとなく、考え事があって…もやもやっとしてたから、自然に足がここに進んだ。



涼しい風が、さぁっと頬を撫でて、気持ちがいい。
容赦ない直射日光は、夏の厳しさを物語っていたけれど、風は冷たく優しかった。
標高が高いから、かな。
そんな事を思いながら、緑の草の上に寝っころがった。
眩しくて、目を閉じるけど、赤い光が瞼に映る。
おれは、考え事があったはずなのに…ここに居ると、すぅっと思考が自然に吸い取られていくようで、なーんにも考えなくなる。



眠っていたわけじゃないと思う。
だって、声をかけられてすぐに気づいたから。
『あ、岳が来た』って…
「走」
「ん…岳?」
おれが目を開けると、岳の顔がすぐ近くにあった。
「うわっ、わわわわわわわ」
慌てて声を荒げると、岳が舌打ちひとつ。
「ちっ、起きたか」
岳はそう呟いて、おれから離れた。
もぉ、なにするつもりだったんだよっ。なんとなく想像つくけど…
おれは半身を起こした。
岳はおれの隣に座っていた。
「どうしたの?岳」
尋ねると、岳はおれの肩に手をまわし、おれを引き寄せた。
「走こそ、どうしたんだよ」
耳元で囁く岳。
あ、なんかこの雰囲気…
もしかして岳、エッチモード入ってる?
「うーん…おれは、べつに…」
曖昧に答えると、強い力に引っ張られて、
「探したんだぜ」
ぎゅっと、抱きしめられた。
いや、抱きすくめられた。
いっつも思うけど…岳っておっきぃよね。背はそんなに変わらないのにさ。それとも、おれが華奢なのかな。
ぎゅーって、抱かれてると、気持ちいい。
危うくそのまま、ぼーっとしかけたんだけど、
「探した…って、アニマニウム中を?」
おれは我に返って、岳に尋ねた。
確かアニマニウムって、めちゃくちゃ広かったと思うんだけど…
「あぁ」
当然のように答える岳に、おれはビックリして、体を離した。
名残おしそうにおれの肩を追う岳。
だけど、おれは正面から岳の顔を見つめて、
「どうしてっ?!」
ちょっと大きな声を出してしまった。
それに、珍しくきょとんとする岳。
「どうしてって…おまえが居なかったから」
「なんで?!どうして岳は、おれのためにっ…」
おれは、俯いた。
今、思い出した。おれを悩ませていた事…
おれは、岳の顔を見ることができないんだ。
「…………」
岳は無言で、再びおれをかき抱いた。
岳の胸に顔をうずめながら、岳の鼓動を聞きながら、おれは色んな思いに溺れていた。
「なにが、あったんだ?」
優しく尋ねる岳の声。
でも…おれは、その質問に答えられない。
代わりに、
「大変だったんだろ?」
言葉をかける。
見えないけど、岳が微笑んだような気がした。
「まぁな」
たったそれだけ。



岳は…優しいね。
冷たくって、気持ちいい…風みたいだ。
おれの心を、そっと撫でていくんだ。
でも、おれは…その風に竦んで…

「岳」
おれは岳を見た。
「そろそろ、帰ろっか」
「あぁ」
二人で、アニマニウムを下りた。

ダメだよ。
岳が優しいから、おれはどんどんダメになってく…
愛されすぎて、守られすぎて、おれは堕ちていってる。
一人の鬼に、心が揺さぶられてる。

だから…今夜は、抱いてほしいな。
ねだったら、抱いてくれるかな?



                               つづく 





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