■ 倒された写真たて ■





「アスラン…?」
「わ!」

 ノックしても返事がないので、入ってみると、アスランは一人ぼーっとしていた。
 声をかけると、驚いて、

「なんだ…ニコルか」

 と胸をなでおろす。
 その後ろ手で、まるで隠すように、写真立てが倒された。
 アスランはさりげなく倒したつもりなんだろうけど。

「ごめんなさい、ノックはしたんですけど」
「いや…俺もぼーっとしてて…」
「最近多いですよ?大丈夫ですか?」
「あぁ…」

 少女のように、やわらかく微笑むアスラン。
 その笑顔が、社交辞令であるのを知っているから、
 なにか、拒絶されたような気がした。

 前にも、こんな笑顔を見せられた。
 あの時は、アスランがぼーっと宇宙を眺めていて…
 まるで、自殺でも考えてるみたいに、闇を見つめていた。

「なにか…用か?」
「あ…いえ、ただ遊びに来ただけなんですけど…。疲れてます?」

 ラクス嬢が見つかってから、最近は任務もなくて。
 疲れてるというよりは、暇してると思っていたから、あえて尋ねた。

「いや」

 予想通りの返事。

「よかった。トランプもって来たんですよ。懐かしいでしょう?」
「ニコル…そういうものは…」
「いいじゃないですか。あ、でも二人じゃ面白くありませんね。占いでもします?トランプ占い」

 ふっと、アスランが笑った。

「なんか…女の子みたいだな」
「あ、ひどいですね。気にしてるのに」
「わるい、わるい。でも、できるのか?」
「結構ぼく、こういうの凝り性ですから。なに占います?」
「そうだなぁ…」
「やっぱり恋占いにしましょうか。定番だから」
「え…」
「じゃあ、まずアスランの恋愛運から…」
「ちょ、ちょっと、ニコル…!」

 アスランが止めようとしているのには、気づかないふりをして、適当にトランプを切る。
 それらしくトランプを数枚床に並べて、一枚ずつめくっていく。

 最後のトランプまでめくり終える。

「どう…なんだ?」
「…いいにくいんですが、アスランは女運があまり良くないです」
「そう…か」
「あ、落ち込まないで下さいね。こんなのただの占いですから」

 また、しゃきしゃきトランプを切る。



 しばらくの沈黙のあと、尋ねた。

「あの写真…恋人なんでしょう?」

 アスランがびくりとする。

「あの…倒されてる…」

 写真立て。

 他人に見られたくない写真。
 そこにはきっと、アスランの大事なものが映っている。

「あぁ…昔のな…」
「今も、好きなんですか?」

 アスランは答えない。

「アスラン、その写真の人は…」
「もういいだろうニコル」
「だって、アスラン。さっきその写真見てたから…」
「いいんだ…もう…」

 なにかを振り切るように。
 そう言い放つアスランの瞳が、揺れていた。

「…亡くなった…とか?」
「いや…」
「じゃあいつまでも、その人を追いかけてるんですか?別れても」
「別れては………!」

 言いかけて、口ごもる。

「別れてないんですか?」
「そうじゃない…別れた…。でも、気持ちは別れてない…」
「引き離された?」



「俺が…置き去りにした。それだけだ」

 アスランは床に並べられたトランプを集め、僕に手渡した。

「悪いがニコル、今日はもう…」
「えぇ…ごめんなさい。変なこと聞いてしまって…」

 今日のところは退散しておく。

「でも…」
「・・・・・」

「アスランがその人のこと、忘れられるように…僕、願ってます」

「ニコル!?」

 アスランの驚いた声は聞こえなかったふりをして、
 僕はドアを閉めた。





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暗いですか。
アスキラ前提のニコアスってことで。
 




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