切ないのは、恋だから。
そんなことは、知っているけれど。
この気持ちが、そんな女々しいものだとは思いたくない。
でも…恋しているから。
認めたくないけど…これは、恋だから…
■嫉妬しても…いいよね?■
夕暮れ。
帰り道。
キラは突然、アスランに宣言した。
「もう…キスしないで」
当然のようにさよならのキスをしようとしていたのに、キラにそう言われ、アスランは固まってしまった。
「え…」
「・・・・・」
両肩に置かれた手も、キラは払いのけた。
突然の、拒絶。
「ど、どうして?キラ、僕が嫌いになった?」
「そうじゃ…ないけど……」
キラは苦しそうに、自分の胸をつかんだ。
そして…思い切ったように背を向け、一人帰路をすすめた。
「え…ちょっと!待ってキラ!」
慌てて追いかけて、キラの腕を掴む。
キラの足は素直に止まった。
今度は、振り払われない。
「キラ、わからないよ。なにか言ってくれなきゃ、納得できない」
「・・・・・」
キラはそれでも、何も言おうとはしない。
なおも、自分の胸を掴んだまま。
「苦しいの…?」
アスランはキラの正面に立ち、真摯に見つめた。
キラは俯いて、
「苦しいよ」
答える。
「苦しいよ!アスランのせいだっ」
そして、ぽろりと一粒涙が零れた。
「うわ。キラ…あ、あそこ行こう。これ、使って」
「ハンカチくらい、持ってる」
差し出されたハンカチは、受け取らなかった。
「いったい、僕が何をしたの?」
公園の影で、キラの涙が引くのを待ってから、アスランは優しく尋ねる。
身にまったく覚えのなかったアスランは、突然のキラの拒絶がわからない。好きあっている自信はあったのだ。
「…自覚、ないんだ」
うんと間をもたせ、キラはやっと恨めしそうに言った。
「ごめん…わからない」
アスランが正直に答えると、キラははぁとため息をついた。
「僕も…ごめん。うん、アスランが自覚ないのは、当然なんだ。だって、僕が勝手に…」
「えっと…キラ、なんのことなのか、さっぱりわからないんだけど」
やっと、キラは顔を上げた。
「今日、お弁当もらってただろう?」
「え?あぁ…あの、下級生の」
「うん。あの子、アスランの事好きなんだよ」
「そうだろうね」
「…っ!」
キラは言葉を失った。
あまりに素っ気無い、アスランの答え。
「そうだろうねって、アスランは、なにも思わないの!?」
「何を?」
「だって、あの子はアスランのためにお弁当を作ったんだよ?それを…」
「うん。だから、断らなかった」
「でも…だって、僕がいるのに…あ」
キラは慌てて口を噤んだ。
けれど、アスランはしっかりそのセリフを聞きとめていて、
くすりと笑った。
「なんだ。もしかして、ジェラシー?」
「な…違っ…!」
「嬉しいな。キラがそんな風に思ってくれるなんて」
「違うってば!」
「違うの?でも…」
と、アスランは自分の胸を掴むキラ手を包み込む。
「苦しかったんだろう?」
「うっ…////」
真っ赤になるキラ。
アスランはほっとしていた。
嫌われたわけではなかった。それどころか、キラの自分への想いを再確認できた。
これでは、にやけてしまう顔を抑えることができない。
「な、なに笑ってるんだよ!」
「ごめんごめんっ」
「もうっ…アスランのバカ!薄情者!その気がないなら断ればいいんだよ!」
「は?なんのこと?」
「なにって、お弁当!」
あ…と、アスランは思い出す。
キラのことになると、それで頭がいっぱいになってしまうのだ。
「だって、断ったら可哀想だろう。折角作ってくれたのに、失礼だし」
「ばか!わかんないかな…変に期待を持たせるなっていうんだ!」
「???」
「好きな人に受け取ってもらえたら、どう思う?期待しちゃうじゃないか。ひょっとしたら…って、思っちゃうじゃないか。そういうの、一番苦しいんだよ?あとで、すごく悲しくなるんだからっ…」
自分が片思いしているわけでもないのに、キラはまた泣き出してしまう。
いや、自分にもあったのだ。アスランに片思いしていた時が。
その時の想いが、とても強いものだったから。
そんな想いを、あっさり受け取ってしまうアスランが憎くてしかたがなかった。
それと同時に、自分は恋人として認識されてないのかとも思った。
さらに、アスランに好意を向ける少女が疎ましかった。
これは…嫉妬だ。
「キラ…」
アスランは涙を流し続けるキラの眦に、そっとキスをした。
とたん、涙は魔法のように止まる。
「・・・・・!」
「ごめんね。キス…我慢できなかったよ」
そして、当然のように、アスランは草葉にキラを押し倒す。
「アスランっ」
「キラ、ジェラシーなんて必要ないよ」
「だから、そんなんじゃ…」
「だってね、僕の心はキラでいっぱいなんだから。他の誰が僕をどう思ったって、関係ない」
「薄情者…」
「うん、そうかもしれないね」
押し倒したキラに、アスランは自分の唇を押し付けた。
「ちょ、ちょっと待って…こんなところで…」
嬉々としてキラのベルトを外し始めるアスランの手を、キラは制止しようとした。
「ごめんね、僕は薄情者だから」
「はぁ?」
「それに、キラに嬉しい事言ってもらったし。ちょっと遅くなっても、いいよね?」
「よくなっ…んっ」
アスランの指が、キラの口内にねじ込まれる。
「舐めて、キラ。これ、うしろに挿れてあげるから」
「ふんんっ…ぅ…ん……っ」
最初の抵抗はあったものの、
強引に入れられたにも関わらず、キラはまるでアスランのものを慰める時のように、丹念に舌を使った。
指先や指の関節の裏から伝わるキラの舌の熱さが、アスランを欲情をそそる。
外の寒さに悴んだ手の冷たさは、キラによって吸い取られていく。
アスランの指を味わう表情もまた、夕日を受けて赤く、扇情的に映った。
「そんなに、美味しい?」
指を引き抜くと、キラの舌が名残惜しそうに覗いたので、アスランは妖しい笑みを浮かべて尋ねた。
もちろん、キラが頷くわけもない。
潤んだ瞳で睨むだけだ。
「そんな風に見られると、我慢できなくなるんだけど?早く挿れて欲しいの?」
「ばか…」
アスランが恥ずかしいセリフで攻めるのは、毎度のことなのに。
いちいち上気してしまう自分が嫌で、キラは顔を隠すようにアスランを抱き寄せる。
その甘えるような仕種に、アスランは理性が飛びそうになった。
「…キラ、可愛いね。すごく、可愛い…。大好きだよ」
「・・・・・」
「おまえが、やきもちを焼いてくれるなんて…夢みたいだ」
「や、やきもちじゃないっ」
「うん、わかってる」
どこか噛み合わない会話のうちに、アスランはキラのズボンを抜きさる。
そして、キラの唾液に濡れた指を谷間へと滑り込ませた。
「やっ…ちょ、いきなり!?」
突然の異物に、キラは激しくアスランの指を締め付ける。
「いきなりじゃないよ。ちゃんと慣らしてから、挿れてあげる」
「そ…じゃなくてっ」
「なに?して欲しいことがあったら、言って」
「いじわるっ………あ!…やだ……そこは…っ」
過去2度の情交で、キラの前立腺を支配したアスランに、もはや勝てるわけなどなかった。
対等であったはずなのに。
身体の関係を築いてからは、キラがアスランに翻弄されっぱなしで。
これまで感じたことなどなかった、嫉妬という女々しい感情まで現れてしまった。
「アスラン…の、せい…だからな……」
「ん?なにが?」
「僕を…こんな風にして…っ……あぁっ」
ぴゅっと、白い飛沫が飛ぶ。
後ろだけで達したキラは、絶頂感に涙を流した。
「キラ…」
「こんな…こんなのって……」
なにか、凄く自分が情けなくて、涙が止まらない。
対等であったのに。
自分ばかりが、恋の嵐に飲まれているようで。
余裕を見せるアスランが憎いくらい、キラは自分が嫌になった。
こんなに、涙もろくなったのも…すべて。
「泣かないで、キラ」
アスランは唇で、キラの涙を拭う。
それと殆ど同時に、アスランは中の指を開いて入り口を広げると、自らを押し挿れた。
「アスランっ…」
「背中、痛いかな。ごめん、でも…」
一気に貫く。
その瞬間、キラは弓のように身体を撓らせた。
「あぅっ……やぁ…っ……」
まるで貪るように、アスランはキラに自分の身体を押し当てた。
もっと深く、深く身体がぶつかるように。
「くっ…ぁ……あぁっ…や……あんっ…」
衝撃に耐えて、キラは草を握り締める。
こんな乱暴なのは、初めてだった。
地面の硬さが、キラに痛みを与えるが…次の瞬間には快感に変わった。
アスランの太くて重いあれを、思い浮かべて、キラは締め付ける。
「うっ…キラ、ごめん…もう…」
珍しく、アスランに余裕がない。
しかしキラとて、余裕なんて最初からなかった。
「あ…アスラン……僕も…もぉ……」
「キラ…好きだよっ……」
「僕もっ……あぁっ」
自己嫌悪。
「どうして…僕ばかり、こうなんだろう」
アスランに凭れながら、つい、そう漏らしてしまった。
「キラ、それ…僕のセリフなんだけど」
「は?」
「どうして、僕ばかりキラに振り回されてるんだろうって」
キラは目を丸くした。
「なに言ってるの!?振り回されてるのは僕だよ!」
「よく言う…今日だって、いきなり泣いて僕を煽ってきたじゃないか」
「あれは…っ」
「突き放して、泣いて、最後には嬉しいこと言って。…ひょっとして、僕をからかってるの?」
「そんなわけないだろっ」
「そうかな?」
「そうだよっ!なに?そんな風に思ってたの?」
キラは驚いて、アスランを見つめた。
からかうなんて、そんな余裕どこにもない。
ただ、アスランが好きでしょうがなくて。
嫉妬して。キスさえも辛くて。
「だって…キラが好きなんだ。大好きなんだ。おまえのこと考えると、疼いて仕方ない」
「それ、本気で言ってる?」
「当たり前だ。今だって、キラが自分の恋人だってことが信じられないくらいで」
「じゃあ…」
キラは感極まって、アスランに抱きついた。
「嫉妬しても…いいの?」
「え…」
「こんな、女々しい僕は…いやじゃない?」
「そんなこと…」
あるわけない。
耳元で囁かれて、キラはまた体温が上がるのを感じた。