■昔話■
出会いっていうのは、突然なものらしいけど。
それでも、その出会いは。俺にとっては本当に驚きだった。
だって、あいつはいきなり落ちてきたんだ。
空から。
「わわわ…わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
ドスッ
「ぐふっ」
授業をサボって、木陰で昼寝をしているところに、そいつは突然落ちてきた。
「ぐっ…げほっごほっ…」
まったく予知しない腹部への強烈な一撃は、いくら陸忍科で一番の秀才と謳われる俺でも、耐えられるものではなかった。
内臓が破裂しなかったのは、訓練の賜物だろう。
いや、実際、口から胃が出てきそうな衝撃だったが。
「あれ……?…あ!あぁっ!!」
俺の腹に落ちてきたのは、
赤い服を着た少年。
彼はしばらく状況が飲み込めずに居たようだが、俺の顔を見、やっと俺の上から退いた。
「ご、ごめん!大丈夫か!?」
これが、出会い。
「ごめん。こんなところに人が居るなんて、思わなかったんだ」
彼は今にも泣き出しそうな顔で、必死に詫びた。
赤い色の服は、空忍科のしるし。年は、俺より少し下だろうか…。
「本当にごめん!おれ何でもするから、おなか大丈夫?」
長めに無造作に切られた茶髪は、最近の若者っぽい軽そうな印象を与えるが。とろりと濡れた瞳が、幼く清らかだ。まるで、子供が無理をして、見た目だけ大人になったような感じ。
「だ、大丈夫…?口もきけないの?」
と、彼は何もしゃべらない俺を心配そうに見上げた。
「あ!大丈夫」
俺は慌てて言った。
またやってしまった。
初対面の相手を分析するのは、訓練でできてしまった癖だ。
「ほんとに?」
「うん。さすがに、ちょっとキたけどね…」
「ごめん、おれの不注意で」
しゅんと項垂れる彼。
こんな相手じゃ、怒ることもできない。
「いいから、泣かないでよ」
「な、泣いてはないけどさっ」
彼はそれを証明するように、はっと顔をあげた。
泣いてはないけど…涙目ですよ?
「でも、本当…ごめん。あ、おれ椎名鷹介。空忍科なんだ」
「あぁ…俺は尾藤孔太。見たら解ると思うけど、陸忍科」
俺は黄色のジャケットの襟をつまんで見せた。
すると、鷹介は不思議そうな顔をする。
「陸忍科がこんなとこで何やってたんだ?」
ぎくり。
そりゃ、不自然だろう。この辺りは水忍科の訓練場に良く使われる水辺だ。
空忍科は来ても、陸忍科はまずこんな水辺で訓練はしない。
まぁ、嘘をついても仕方ないし。正直に。
「サボりだよ」
そう告げると、何故か鷹介は嬉しそうな顔をした。
そして、
「なんだ、おれと同じか」
と、笑った。
「サボりっていうかさ、おれ…自主練してたんだ」
鷹介は俺と同じように、隣に寝転がった。
「自主練?まじめだな」
「全然!空忍科じゃ不真面目一等生。まともに授業受けたことなんかないもん」
「じゃあ、どうして?」
「空を飛んでみたいんだ。超忍法ってあるだろ?あれにさ、『空駆け』っていう技があるんだ。その名の通り、空を走る忍法でさ。初めて見た時は感動したんだ。で、それを習得するために空忍科に入ったんだけど、ちっとも忍法らしい忍法なんかしないで、実習なんかいつもグライダーでさ。なんか、違うなぁ…って」
「それで、その『空駆け』の練習してて、落ちたってわけか」
「うん。孔太は?…あ、孔太って呼んでいいよな?」
「いいよ。…そうだなぁ。俺はただ単にサボりたい気分だったから、サボっただけなんだけど」
「うわ、本物の不良?」
「かもね」
これでも、陸忍科一の秀才って言われてるんだけど。
そんなことは言わない。
どうやら、鷹介は、俺を自分と同類と思っているみたいだから。
だから、こんなに親しげに話してくるんだ。きっと。
「そっかー、不良かぁ」
鷹介は感慨深げに呟いている。
そして、くるっと俺の方に寝返りを打ち、
「なんか、かっこいいなっ」
と微笑んだ。屈託なく。
いったい、この少年はいくつなのだろう。
本当に、大人に憧れる子供のような瞳。それでも、背丈は俺と変わらない。
不思議な感じがする。
なんだろう、この…鷹介は…
「なに?」
目を合わせたまま、向き合って寝転んだ状態のまま、俺が視線を外さないのを、鷹介が何故と尋ねる。
しかし、俺がそれに答える前に、
「あー!わかった!」
と、鷹介は自分で答えを出した。
「おれに惚れたんだろ?」
「はい?」
「違う?絶対そうだと思ったんだけどなー」
っていうか、なんでいきなり俺が男に一目惚れしなきゃならないのか。
なにか、この少年は感覚がおかしいんじゃないか?
ただ、じっと見つめてしまっただけで…いや、確かに、それは俺の悪い癖だけれども。
「おれ、これでも結構モテるんだぜっ」
「誰に?」
「同じ科の奴らに」
「それって男だろう?」
「そうだけど?」
「嬉しいかぁ?男にモテて」
確かに、ここには男ばかりだ。
一人だけ、水忍科に女子が居るらしいが、それ以外は皆男だ。
よって、どうしても外界と閉鎖された空間に、生まれる愛は歪んだものが多い。それは認める。
だが、それでも、女という対象が無いからやむを得ずそういう道に走る者がいるわけであって…
不特定多数の同性に、好意を抱かれて、果たして嬉しいものだろうか?
いや、正直、ここにいる鷹介は、男にしては可愛い顔をしていると思う。
思うが、どう考えても鷹介は男であるのだから、だから…
「男だろうが、女だろうが、好きだって思ってもらえるのは嬉しいよ」
俺の思考は、鷹介のそのセリフで止められた。
「そ、そういうものかなぁ?」
「そういうもんだろ」
自身満々に言う鷹介。
そんな風に言われると、まるで俺の否定的な考えに魅力がなくなっていく。
そうか、そういうものかなぁ…。
「じゃあ、もし今ここで『俺は鷹介が好きです』って言ったら、どうするんだ?」
「それって、一目惚れ宣言?」
「もしもの話でお願いします」
「うーん…そうだなぁ」
鷹介はしばらく考えたあと。
「『まだ知り合ったばかりなので、とりあえずお友達から始めませんか?』って言うと思う」
「普通…」
「なっ、普通だろ?こういうもんだって」
鷹介は勝ち誇った様に言って、また仰向けに戻った。
俺も仰向けに姿勢を直す。
それから、俺たちは良くその場所で、高い太陽に身をさらしていた。
それは、特に秘密でも約束でもなんでもない、ただの昼寝場所。
「その後、七海が偶然この場所に来たんだ」
孔太は七海にそう語り終えると、少し息をつく。
七海は「なーんだ」と、おもしろくなさそうに溜息をついた。
「な、言っただろ?特におもしろくも何とも無い話だ…って。だいたい、俺と鷹介が知り合ってすぐに、七海とも知り合ったんだから」
「うん。ほんとみたいね」
「なに?嘘だと思ってたの?」
「ってゆーか、私が知り合った時にはもう凄く仲良かったから、すでに関係をもってたのかと思ってたんだけど」
「まさか。あれから落とすのが大変だったんだ…あ!鷹介来た」
話もちょうど終わった頃に、鷹介は仕事を終えてやってきた。
この、水辺に。
「おーいっ」
赤いジャケットを着た、少し大人になったかもしれない、鷹介。
「鷹介ー!おっそーい!」
「もう先に食べちゃうとこだったよ」
七海と孔太は、お弁当の箱を見せ付けるように掲げてみせた。
今日は、ちょっとだけピクニック。
1年前と変わらない。
しかし、人の気配の無くなった…この水辺で。
「なんかさ…今。七海に話してて、思ったよ」
「?」
「1年前、この場所で、初めてあった時から。俺、鷹介のこと、好きだったのかもな。」
「そうなの…」
「でもまぁ。それも、昔の話だけど…な」
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ぴー!なんだかめちゃ普通に健全だし!!
初めてなので、こんなんです。送る価値あるのかなぁ…と最後まで悩んだのですが、これしかハリケンオンリーの話が書けなかったものですから…(汗)
ってか、孔太+七海にも見えるよ。コレ。あーあ。
あぁ、これからは昆虫兄弟炸裂するんですよ…きっと…