red E


 走は、俺のものだ。
 誰にも渡さない。


 俺の名前を呼ぶ声も、
 喘ぐ息も、
 甘い表情も、
 熱くなる身体も…


 全て…俺のものだ。




「いやっ…いやだああぁぁぁっ!!」
 走は初めて、俺を本気で拒んだ。
 今まで「いやだ」は何度も聞いたが、それは、本気で嫌がってるわけではなかった。その証拠に、走は俺を突き飛ばしたりしなかった。
「っく!!」
 俺は壁に、背中から打ち付けらる。
 走は、その細身からは考えられないような怪力で、上に乗った俺を突き飛ばした。
「か…走……?」
 さすがは獅子の戦士…とでも言うべきか、俺は立ち上がることができない。
 背中と腰の骨が痺れている。
「あっ…お、おれ……」
 走は、俺を拒んだ自らの両手を、呆然と眺めて呟いた。
 なにか、自分のしたことが信じられないような走の様子。
 その異様な雰囲気に、俺は回想を試みる。
 俺は…なにかしただろうか。
 夜もふけて、俺の部屋で二人きり。いいムードになったから…
 いつもの様に、押し倒しただけだ。
「走…、どうしたんだ」
 どうしても、自分で原因を探すことはできない。
 俺は、なるべく走を刺激しないように、極力優しく尋ねるが、
「ご、ごめんっ!おれ…」
 返ってきたのは、今にも泣き出しそうな少々裏返った声。
「おれ……岳に…」
 本格的に、おかしい。
 前々から感じていた、走の異変。
 それは、たまに物思いに耽っていたり、どこか遠くを見ている様だったり。
 まぁ近頃、PAを狼鬼にとられたりしていたから、そのことで悩んでいるのかと思っていたが…
 今日のこの様子からして、原因は別のところにあるらしい。
 まるで、ヤることを恐れているような、俺を恐れているような態度。
 微かに震える体と、揺れる瞳が、走の恐怖を如実に物語っていた。
 まさか…いや、まさかとは思うが……
 走は、俺以外の誰かに…
 恐ろしい仮説が、俺の頭を過ぎる。
 しかし、それを本人に確認する程、俺の度胸は据わっていなくて、
「わかった。悪かったな、走」
「えっ…」
 走に近づこうとするが、身体に痛みが走って、仕方なく腰の抜けた様な姿勢のまま、話し掛ける。
「走だって、ヤりたくない時くらい…あるよな。悪かったよ」
「そんなっ…違うんだ、岳っ!」
 走は何か言おうとするが、その口は一度きゅっと閉じられる。
 そして、ゆっくりと続きは告げられていく。
「岳は…悪くないんだ。悪いのは…おれなんだから」
「走…?」
「ごめん…」
 走は呟いて、動けない俺に近づいてくる。
 そして、その距離がなくなる時、
「っ!」
 思わず目を見開いてしまった。
 走は、俺に深いキスをしかけてきた。
(なっ…走っ?!)
 思考はパニックに陥りかけるが、そこは経験上、俺は冷静に瞳を閉じる。
 そして、熱心に俺を求めてくる熱い舌に、しっかりと応えて、俺も走の口内を探り始める。
 零れる唾液も気にならないくらい、熱く甘い口付け。
 それの意味するところは、解らなかった。
 しかし、俺はその気持ちよさに夢中になって、そんなことは頭から追い出した。
 動かない身体が憎い。
 身体に自由があれば、このまま走を抱きすくめて、その体中にキスを施してやるのに。
「…ふぅ」
 唇を離して、走は息をついた。
 俺も、危うかった呼吸を、走に気づかれない様に整える。
「ごめん。岳」
 なぜか謝る走。
「は?なにが?」
 こっちは本気で解らないから聞いているのに、
「…岳、やさしいね」
 と言って、走は微笑む。
 なにがなんだか…こっちはさっぱり解らない。
 ま、とりあえず。
「走。それより、俺…動けないんだが?」
「えっ?!」
「腰が立たねー」
「あっ!おれが突き飛ばしたから…ご、ごめん岳!!」
「いや、いいから、起こしてくれるか?」
「う、うん」
 走の肩を借りて、俺はようやく立ち上がる。
 この姿。自分で情けないっ!
「岳…大丈夫?腰がおかしいの?シップとか貼ろうか?」
「いい。一晩寝れば治る」
「だめだよ!ちゃんと治療しないとっ…とりあえず、ベッドに寝よう。な?」
 走に促されるまま、俺はベッドにうつ伏せにされる。
 すると、走は俺のシャツをまくし上げた。
「か、走っ?!」
 いったい、何をされるのか…と思っていたら、走は俺の背中にその手を這わせた。
 思わず、ぞくぞくっと電気がはしる。
「岳…これ」
「ぁんだよ走。いいから、大丈夫だ」
「これじゃ立てないはずだよ。背骨が…」
「てめぇがやったんだろーが」
 言ってから、しまったと後悔する。
 しかし、それは遅かった。
「そうだね…本当、ごめん。おれ、なんてことを…」
「あぁ!だから、いいっつーんだ。いちいち泣くな!」
「な、泣いてはないっ」
 必死になってる。
 少し、いつもの走に戻ったな。
 可愛い走…おれだけの…
「おれが治すよ」
 …と、人の思考をぱたりと止めるのは、いつものこと。
「はぁ?」
「だって、おれ医者だし」
「医者っつったって、獣医だろーが」
「一緒だよ」
「絶対違うと思うぞ…」
 しかしその後、走のマッサージで、具合が良くなったのは、事実。
 あーあ、なんか俺、今日かっこわりー。



       おわり
                               




  Back



かけるんのマッサージ。
想像してください。ふふふv
いつか、マッサージネタ書きます。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送