■優しい中華料理■


「うーん…」
 大吾は本を凝視しながら唸っていた。
 優しい中華料理。
 それがその本の題。
 久しぶりに亮の部屋を訪れてみたら、ちょうど亮は買い物に出かけるところだった。
「すぐ帰ってくるから、今日はうちで食べてけって。な?」
 と言われ、なんとなく手持ち無沙汰に部屋を散策していたら…
 こんな本を見つけた。
 ずいぶん古い感じで、表紙など色あせていて。
 中をめくってみると、所々が油や小麦粉で汚れていた。
 おそらく、これを見ながら料理をしたのだろう。
 しかし…
「こんなもの、よく作れるな」
 “優しい”中華料理などと題しながら、写真は綺麗な盛り付けの高価そうなものばかり。
 中華料理と言えば、ラーメン・ギョウザ・チャーハンくらいしか思い浮かばないような大吾にとって、それらは未知なる世界の食べ物に映った。
 ひらりとページを繰ると、やっと見慣れた写真が。
「ギョウザかぁ…」
 よく亮が作ってくれる料理の一つ。
(これなら、俺にも作れそうな気が…)
 いや、やっぱりとんでもない。と、大吾が思いなおした時。
「ただいまー。ごめん大吾、待たせて」
 亮が買い物から帰ってきた。
「おかえり」
「ん。今すぐ何か作って…あれ?大吾、それ…」
「あ、悪い…勝手に見た」
「いや、いいんだけどさ。懐かしいなぁ、どこから出てきたんだ?それ」
「え…なんか、この辺から…」
「うわ、そんなとこに紛れてたのかぁ。いや〜マジ懐かしい。これ、ずっと失くしたと思ってたんだよ。サンキューな」
「う、うん」
 本当にうれしそうに、本を見つめる亮。
 なんだか、近い顔に平静でいられなくて…。大吾は本を閉じようとした。
「あ、待って。大吾、今日はこの中の何か作るよ。何がいい?」
「どれでもいいのか?」
「うん。今買い物してきたばっかりだし。この中のヤツなら、全部すぐできちゃうから」
「え、うーん…じゃぁ…」
 これ、と大吾が指差したのは、今見ていたページの餃子。
「これでいいの?いつも結構食べてると思うけど…」
「うん。これがいい。好きなんだ」
「おっけー。大吾が好きならこれにしよ。ちょっと待ってろよ」
「あ、何か手伝う…」
「えー…と、じゃあ、包むの手伝ってくれる?」
 大吾は肯いた。
 少し大きめの、亮の予備のエプロンをつけて、大吾は気合をいれて餃子包みに臨んだ。
 市販の皮で申し訳ないけど…なんて言いながら、亮はささっと材料切って、あっと言う間にタネができて。いよいよ包み。
 左手に皮を乗せて、スプーンで具を乗っけて、水つけて、たたんで、ヒダを付けて…
「あ、あれ?」
 うまくできない。
 その間に、亮はほいほい包んでいく。亮の手つきは実に器用で、見てる分にはとても簡単そ うなのに。
 大吾がやると、具ははみ出すわ、ヒダは作れないわで…悪戦苦闘。
「あ、大吾、それネタが多いって」
「え、多い…か?」
「うん、餃子って、見た目よりそんなに具入って無いんだ」
「そうか…」
「あと、ヒダは…」
 と、亮は大吾の後ろにまわり、大吾の両手に自分の両手を重ねた。
 そして、優しく、
「こう…付けるのは片側だけでいいから…内側から…」
 ささやきながら、大吾の手で餃子を包ませる。
(うあ…)
 亮の、あったかい息が、大吾の首筋にかかる。
 そして、ぴったりと重なった手…
 急に大吾の鼓動が早くなる。
「大吾、聞いてる?」
「あ…き、聞いてる」
「そう?ちょっとドキドキしてるだろ」
(うっ…)
 図星なだけに、なんとも言えない。
 大吾は、気づいた。
(こいつ、ワザとやってる…)
「じゃ、もっかいいくぞ。まず、ネタはこのくらいでいいから…」
 ゆっくり、大吾の手が追いつくように、教え込ませる亮の手。
 湿ってきた首筋が、妙に熱い。
「はい、今度は一人でやってみて」
 亮が離れた。
 それと同時に、大吾は自分の首筋をぬぐった。
 ムズムズして、仕方がなかった。
「大吾、具入れすぎるなよ」
「わ、わかってる」
 重なっていた亮の手を思い出しながら、慎重に包む。
「あ」
「おー、キレイキレイ。上出来だよ大吾」
  ちゅ
「うわぁ!!!!」
 不意打ちのキスに、大吾が飛び退る。
 右頬を押さえながら。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 真っ赤になって、大吾は何も言わない。
 そんな様子に、亮はくすりと笑って、
「ご褒美♪」
 と、のたまった。

「よし、できたー」
 餃子がすべて焼きあがって、二人は食卓につく。
「あ、これ、大吾が包んだやつだ」
「…悪かったな。形悪くて」
「んーでも、最後のほうになってくると、慣れただろ?」
「うん、それなりに」
「タネも簡単なんだぜ?入れたい具を全部みじん切りにして、適当に味付けるだけだし」
「ふぅん」
「今度、一人で作ってみてよ?」
「え」
「だって大吾、上手に包めるようになったしさ。それに、大吾の手料理って食べたこと無いし」
「亮が作った方がおいしい」
「ありがと。でもな、好きな人に作ってもらうものはまた格別って、言うだろ?」
 好き…なんて。
 さらっと言ってのける亮に、大吾はまた赤くなってしまう。
「・・・・・」
「だめ?」
「さっきの本、貸してくれるか?」
「あぁ、あれ?あれさぁ、俺が初めて自分で買った本なんだ。うん、あれなら簡単だし。貸してあげるよ」
「じゃ、作る」
「うわぁ。楽しみにしてる」
  ちゅ
 と、また。
「……う…」
「不意打ちはお嫌いですかぁ?」
「………ばか」
「それじゃ、こっちにしましょう」
 ふっと、あごを取られ、
 唇が重なる。
  ちゅ
 音を立てるのは、亮の趣味。
「りょ…」
「これ食べたら、お風呂入ろうな?」
「……うん」
 亮に、微笑まれたら。
 そこにたとえ下心が垣間見えても。

 うんと頷いてしまう。


 ぎしっ…と、ベッドを軋ませ、亮は食らいつくように大吾に飛び乗った。
「さて。どうしてほしい?」
 大吾の服の前ボタンを外しながら、亮が意地悪っぽく尋ねる。
「さっき、風呂でしただろ」
「あれ?大吾はあれで満足なんだ?イってないのに」
「お前がイかせてくれなかったんじゃないか!」
「だって、お風呂あと二日は使うつもりなんだもん。節約節約」
「ばか!さっさと寝ちまえ!」
「お、言うねぇ。じゃ、大吾先に寝てもいいぜ?俺、勝手に襲っとくから」
「な!なにをカッテなっ…ん!」
「可愛くないお口は封印な」
「やっ…」
「おやすみ、大吾」



   *おわり*
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 はじめて亮×大吾書きました♪萌芽さんに影響されてます(爆)

 萌芽さんへ♪
 キリリクのお礼です。お礼と言っても、萌芽さんの小説には到底及ばないような稚拙SSですが(汗)。
 どうぞ、お受け取りくださいませ。















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